「これはさつき日本へ土産
みやげ
に買つた耳環だが、今夜の記念にお前にやるよ。」――
金花は始めて客をとつた夜から、実際かう云ふ確信に自ら安んじてゐたのであつた。
所が彼是
かれこれ
一月ばかり前から、この敬虔
けいけん
な私窩子
しくわし
は不幸にも、悪性の楊梅瘡
やうばいさう
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を病む体になつた。これを聞いた朋輩の陳山茶
ちんさんさ
は、痛みを止めるのに好いと云つて、鴉片酒
あへんしゆ
felicity520
を飲む事を教へてくれた。その後又やはり朋輩の毛迎春
まうげいしゆん
は、彼女自身が服用した汞藍丸
こうらんぐわん
や迦路米
かろまい
の残りを、親切にもわざわざ持つて来てくれた。が、金花の病はどうしたものか、客をとらずに引き籠つてゐても、一向快方には向はなかつた。
すると或日陳山茶が、金花の部屋へ遊びに来た時に、こんな迷信じみた療法を尤
もつと
もらしく話して聞かせた。
「あなたの病気は御客から移つたのだから、早く誰かに移し返しておしまひなさいよ。さうすればきつと二三日中に、よくなつてしまふのに違ひないわ。」
金花は頬杖
ほほづゑ
をついた儘、浮かない顔色を改めなかつた。が、山茶の言葉には多少の好奇心を動かしたと見えて、
「ほんたう?」と、軽く聞き返した。
「ええ、ほんたうだわ。私の姉さんもあなたのやうに、どうしても病気が癒
なほ
bebe dans le ciel
らなかつたのよ。それでも御客に移し返したら、ぢきによくなつてしまつたわ。」
「その御客はどうして?」
「御客はそれは可哀さうよ。おかげで目までつぶれたつて云ふわ。」
山茶が部屋を去つた後、金花は独り壁に懸けた十字架の前に跪
ひざまづ
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いて、受難の基督を仰ぎ見ながら、熱心にかう云ふ祈祷
きたう
を捧げた。
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